人狼をする女たち~疑いの根拠は基本的にパーソナリティ~

石川県のとある旅館に集まった9人の女たち。貴重な時間を費やしてひたすらに「人狼ゲーム」を行う、どこにでもいそうな、少しいかれた集団である。これはその時の1つのゲームを自らの視点から描いた、大体は真実の記録である。記憶の混同が激しく、要所要所間違っている自信があるが、ご愛嬌ということで、ここは一つ。


人狼ゲームとは、けっこうな人数で集まり、昼と夜を繰り返す中で村人たちが狼を炙り出したり、炙り出せなかったり、殺したり殺されたりする、なんかそんな感じのゲームである。

村人(3人)…ただの村人。凡人。平民。
占い師(1人)…夜の間に1人だけ、怪しい人物が狼か村人かを占える。
ガードマン(1人)…夜の狼の襲撃から、指定した人物を1人だけ守ることができる。

狼(2人)…村人に紛れ、夜の間に村人を1人ずつ殺していく。
狂人(1人)…占い師に占われても「村人」と判定されるが、狼の勝利を目的とする。


○第一夜

くじの紙を引く。

そっと開くと小さく「狼」の文字があった。
まじかよ。え、まじか。
二度見しても三度見しても文字は「狼」とある。まじかー。である。
狼の心的ストレスは相当なものである。
しかしやるしかない。

「狼の人は目を開けてください。」
マスターのいっちゃんの指示で薄く目を開けると、向かい側に座るちさが、同じように目を開けていた。二人で顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

これから村人たちを欺いていく、相棒である。はっきりいって心強い。
ちさは淡々と話しつつ、場を思うように動かすことに長けている。よかった。まじでよかった。少しの安心感を得て目を閉じる。

「朝がきました。広場の真ん中では、私が死んでいました。」

「「「いっちゃぁーーん!!!」」」

恒例のゲーム開始の合図、「マスターの死を大袈裟に悼むやつ」である。もちろん疑われないよう、ここは全力で悼む。

まだ初日。なんの情報もないところで、誰が怪しいかという探り合いが始まる。疑われないために最も大切なのは「普段のキャラを守ること」である。十年来の親友の集まりで行われる人狼では、ほんの少しのパーソナリティーの変化、つまり「あれ?なんかいつもより静かじゃない?」が命取りである。

私は常にベラベラと思いつくことを話す人間だと思われているため、狼となったこの場においても「どうしよどうしよ~」「なんかりっこさっきとちゃうくない?」と村人が探りを入れているように振る舞った。

その時、突然のんちゃんが真っ直ぐに響いていく声で言った。

「ていうか、ちささんだと思う。」

えっっっっっ!!!??

なんで!!???!?

ぎょっとした。ぎょっとする以外になかった。「なんでー?」と周りが口々に言うが、のんちゃんは、はっきりとした根拠は述べない。ていうかはっきりとした根拠など現時点であるわけがない。だが私は、この人の恐ろしさに震えていた。何故か。ちさが狼だから。もう、「正解!」て言って終わりにしたい。楽になりたい。

取り立てて明確な根拠はないのに、ちさが怪しいという雰囲気に場は包まれていた。のんちゃんの「ちささんだと思う。」は、私たちにとっては、ほぼ真実のようなものだ。ていうか実際に真実!

話し合いの時間が長くなり、指差しをして、昼の間に殺す1人を多数決で決めることになった。やばい。ちさが死んだら1人になる。狂人がいるとはいえ、誰が狂人なのかはわからない。精神的に孤独を味わわねばならない。嫌や。嫌や。しかし。ここで1人ちさ以外の人を指差せば、あっという間に自分も疑われ、今期最弱の狼チームになってしまう。ちさのためにも、それは避けたい。


私は、小刻みに震える人差し指で、周りに同調し、ちさを指差した。1人でやっていく覚悟もできないままに。
そしてちさは死んだ。

「夜がきました。目を閉じてください。」

マスターの優しい声に、固く目を瞑る。涙が出そうだ。


○第二夜

「朝がきました。広場の真ん中では、のんちゃんが死んでいました。」

あぁ……。という落胆の声が重なる。
私が指定したのだから、当然わかっていることだが、あたかものんちゃんの死に衝撃を受けているように下を向いた。

ちかちゃんは1日目の時点で、自分が占い師であると公言している。殺したいのは山々だが、ガードマンに守られ、指定しても命を失うことはないだろう。そこで、純粋に最も死んでほしいのんちゃんを選んだ。
それは当然のことだ。
彼女を野放しにしておけば、今日の時点で

「ていうか、佳穂さんだと思う。」

と真っ直ぐな目で言われる可能性が高い。
そうなった時にはもう、目を反らすことすらできず、「ちっちちちちちがうで。」と少なくとも6回はどもってしまうこと請け合いだ。

のんちゃんという精神的支柱を失い、場は重苦しい空気に包まれた。
お互いにお互いの顔を見て疑わしき人間を探している。

すると占い師を名乗るちかちゃんがいつものことながら、堂々と話し始めた。(彼女は狼の時ですら堂々としすぎていて、逆に疑われるすごく堂々とした人である)

「はるかさん占ってんけど、村人やった!間違いない!」

はるさんは、学生時代から今も変わらず「我らの部長」であり、そのあまりの器の大きさに私は心の中で「丼か。」とツッコミを入れることが多い。とにかくなんかめっちゃすげぇ人である。

彼女は言葉巧みに場を仕切るようなことはしないが、その存在感の大きさは、とにかく味方につけておきたいと思わせるものがある。村人たちが少し安堵した空気が伝わってくる。
まだ彼女が「狂人」である可能性は残しているにしても、だ。

「うちは村人やから、となると、後はこの3人や。」

新熊が素早く話を進めていく。
新熊は偏差値が高いので、全員に警戒されている人物の一人である。
また、彼女の怖いところはとにかく、くじで「ただの村人」を引く確率の高さである。
一時期、彼女があまりに「モブ村人」を引くので、初日にどうしていいかわからない時はとりあえず新熊を殺しておこうという定石が生まれたほどである。

つまり、彼女はあまりにも村人というイメージが強く、逆に言えば、狼である可能性が出た時に最も人に底知れぬ恐怖感を与えうる存在である。

私は狼の役をなすりつけられるとすれば、彼女であろうと、この時にはぼんやりと考えていた。

その新熊が言った「この3人」とは、
りっこ、ひっとん、そして私だ。

なんとか、今日のリンチから逃れるためには、りっこ、ひっとんのどちらかを自分以上に怪しませる他ない。意を決して声を張る。

「いやいや!私村人やし!占って占って!」

もちろんただのハッタリだ。
しかし、この人狼において疑いを晴らすために大切なのは、何度も言うが、パーソナリティーを守ることなのだ。
ハッタリ上等である。

「うちも村人!!占って!!」

りっこが続く。

「え…。じゃあ私も…占って。」

今、めちゃめちゃ怪しい感じで発言をしたのが、ひっとんである。
自分が狼なのに、え?こいつが狼か?と一瞬錯覚を覚えるほどの怪しさである。

ひっとんはこのように、話せば話すほど、どうにもこうにも疑わしい、と感じさせる独特の雰囲気を持っている。その疑わしさを言語化することは難しいが、とにかく、無実を訴える人間の切実さというものに欠けるのである。(それが彼女の通常運転なので、本当に狼であっても、疑いをすり抜けることも多い。実際この後のゲームで彼女は狼として生き残り、見事な勝利を収めている。)

しかしこの時は、いや怪しすぎるやろ、今の間は絶対狼やん、絶対ひっとんやん、間違いないやん、と疑いの目が100%ひっとんへ向いた。

ひっとんは「ちがうって、え、いや、ちがうってぇ」とめちゃめちゃ怪しい感じで弁解を続けた。本当にちがうのだということを知っているのは私とひっとんだけだが、私はもっとだ、もっとやれ、どんどんその誰も信じられない感じの弁解を続けてくれ、と願った。

ついに最終決定を下す時がきた。
ここはしっかりとひっとんを指差す。
他のメンバーも、ひっとんを指差していた。
「えぇぇ…ちがうのに…」と呟くひっとん。
うん、ちがうのにな、ごめんな。
ありがとうな。

そしてひっとんは死んだ。
しかし私は同時に最大のピンチを迎えていた。
今夜、私は恐らく、占い師に占われるだろう。
ガードマンの生死はわからない。
だが、占い師をここで殺す以外に私に残された道はない。
私は賭けに出た。


疲れたのでTo be continue…




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